皆さんはウチワエビという生物をご存知でしょうか?
ウチワエビは、その名前の通り団扇のように平べったい形をした大型のエビで、あまり知られていませんが、実はあのイセエビよりも美味しいと評されるエビなんです。
今回はそんなウチワエビの特徴や生態についてご紹介いたします。
ウチワエビの基本情報
学名 | Ibacus ciliatus |
英名 | Japanese fan lobster |
分類 | 節足動物門軟甲綱十脚目セミエビ科ウチワエビ属 |
分布・生息域 | 房総半島以南 /太平洋北西部 |
大きさ | 15~20cm程度 |
分類
ウチワエビ(Ibacus ciliatus)は節足動物門軟甲綱十脚目セミエビ科ウチワエビ属に属する海洋生物です。
軟甲綱はいわゆる甲殻類の大半を占めるグループで、エビやカニ、ヤドカリ、シャコ、オキアミなどが全て含まれています。
その中でも十脚目はエビ類、カニ類、ヤドカリ類からなる、まさに甲殻類の中の甲殻類とも言うべき分類群と言えるでしょう。
セミエビ科は、イセエビ科とも近縁な大型のエビのグループで、平べったい体型を特徴とします。
これまでに19属が知られており、その中でもウチワエビ属は、インド洋から太平洋にかけての熱帯・温帯海域から8種が記載されています。
そのうち、日本近海にはウチワエビとオオバウチワエビの2種が分布しています。
ちなみにウチワエビの記載者は、江戸時代に日本を訪れた著名な博物学者フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトです。
シーボルトが九州で集めた膨大な生物標本の中に、ウチワエビも含まれていました。
特徴
ウチワエビの体長は15~20cm程度です。
体型は上から押し潰されたように平たく、体の前方が円盤形であることも相まって、その名の通り団扇のような形をしています。
硬い外骨格が全身を覆っていて、縁にはギザギザの切れ込みがあって、鋸の歯が並んでいるかのように見えるのが特徴。
とりわけ体の前方中央と、頭胸甲の左右の切れ込みは大きく、前方中央の切れ込みからは細く短い第1触角が伸びています。
小さな複眼もはその付け根付近で、一見頭胸甲の一部に見える複眼より前方の円盤部分そのものが第2触角に当たります。
歩脚と腹脚はとても短いために背中側からは全く見えません。
ウチワエビの体色は全身赤褐色で、斑紋のような模様は見られません。
同属のオオバウチワエビとはよく似ていますが、ウチワエビの頭胸甲の縁の棘が11~12個であるのに対して、オオバウチワエビのそれは8個しかありません。
また、ウチワエビは全体的に多くの小さな棘があるのに対して、オオバウチワエビの棘は数が少なく大きいといった点で、区別が可能です。
生態
ウチワエビは太平洋北西部の熱帯海域から温帯海域にかけて分布しているエビで、南はフィリピンからは北は朝鮮半島や西日本までで知られています。
日本国内では房総半島以南の太平洋側と、山形県以南の日本海側で見られるエビです。
ウチワエビの生息する水深については、49~324mから記録があり、比較的浅い海の砂泥底を好みます。
泳ぐ能力に乏しいウチワエビは海底を歩きながら暮らしていて、貝類やゴカイのような多毛類を捕食します。
天敵は、サメやエイのような軟骨魚類、タコのような頭足類で、危険を感じると尾を振って素早く後ろへ飛び退きます。
ウチワエビの繁殖期は秋で、雄と交尾した雌は、産んだ卵を腹脚に抱えて保護します。ブドウの房状の卵からは、フィロソーマ幼生あるいは葉状幼生と呼ばれる形態の幼生が孵化します。
その姿は広葉樹の葉のような透明な体に長い遊泳脚がついていて、親とは全く似つきません。
ウチワエビの幼生は、潮の流れに乗って、プランクトンとして外洋を漂いながら成長します。
ウチワエビの幼生は、「ジェリーフィッシュ・ライダー」と呼ばれて、クラゲ類に騎乗してそれを餌にしながら成長し、分布域も広げるという非常に特異な生態が知られています。
十分に成長した幼生は、着底した後に変態し、親とよく似た稚エビの姿となります。その後は、海底で暮らしながら脱皮を繰り返し、成体になってゆくのです。
美味しい高級エビ??
ウチワエビは生息数が多い西日本沿岸では底曳き網などで盛んに漁獲されていて、とても美味しいエビとして高値で取引されています。
よく似た同属のオオバウチワエビとは特に区別することなく出荷されています。
特に長崎県の五島列島はウチワエビの産地として有名で、資源保護の観点から漁獲期間が制限されているほどです。
また、宮崎県でも「パッチンエビ」や「パタエビ」と呼ばれてよく食べられています。
ウチワエビの半透明の白い身には甘みと旨みが詰まっていて、イセエビよりも美味しいと評されるほどです。
刺身や塩茹で、味噌汁などに調理されます。
関東においては地元でほとんど獲れないことから存在自体が知られていなかったのですが、近年はウチワエビの美味しさが知られるようになったことで、西日本から出荷され、市場に出回るようになっています。
ただし、希少価値が高いこともあって、イセエビと並ぶ高値がつく高級エビです。
ウチワエビは水族館でも飼育展示が行われることがあり、成体が展示される他、クラゲ類に寄生する特異な生態が注目されて、フィロソーマ幼生が展示されることもあります。
ウチワエビは通販で買える?
ウチワエビは通信販売で購入することも可能です。
在庫状況は変動しますので、下記のバナーからそれぞれの検索結果をチェックしてみてください。
まとめ
ウチワエビは、節足動物門軟甲綱十脚目セミエビ科ウチワエビ属に属する海洋生物です。
イセエビに比べると、知名度が低いウチワエビですが、平べったい体型にも拘わらずぎっしりと詰まったその身は、濃厚な甘みと旨みを持ち合わせています。
その美味しさは一昔前までは知る人ぞ知る存在で、西日本の産地で消費されていましたが、最近は関東の市場へ出荷されることも多くなり、食べる機会が増えているエビと言えるでしょう。
皆さんも機会がございましたら、是非一度ウチワエビの美味しさを味わってみてください。