クロホシマンジュウダイは、チョウチョウウオなどの様な極彩色の体色を持つ派手な熱帯魚ではなく、渋い色合いの魚です。
その上、食用魚として流通経路にもあまり乗らないので一般人には馴染みがないかもしれません。
しかし観賞魚として販売されている事もある、知る人ぞ知る魚なのです。
クロホシマンジュウダイの基本情報
学名 | Scatophagus argus |
英名 | Spotted scat |
分類 | スズキ目ニセダイ亜科クロホシマンジュウダイ科クロホシマンジュウダイ属 |
分布・生息域 | 西日本、西太平洋、インド洋 |
大きさ | 30㎝程 |
分類としては、スズキ目・ニセダイ亜科・クロホシマンジュウダイ科・クロホシマンジュウダイ属となり、世界の海にたった2属4種しかなく、日本では本種クロホシマンジュウダイしかいません。
生息域
ミクロネシア・珊瑚海や南・東シナ海から日本にかけての西太平洋沿岸と、アラビア海・ベンガル湾からオーストラリア北西海岸にかかてのインド洋沿岸の、熱帯から亜熱帯に生息しています。
日本では、主に琉球列島以南に棲んでいますが、西日本の太平洋・日本海沿岸部で時折見る事ができます。
しかし刺し網・定置網などで他の魚に混じって漁獲された時には、漁師をして珍しい魚が獲れたと言わしめる程度です。
関東以北ではほとんどいない様です。
成魚は海水域にも棲んでいますが、内湾のマングローブ林や河口付近の、やや濁った浅い汽水域が主な生息場所で、幼魚は淡水域にも生息しています。
ですから幼魚が防波堤や岸壁近くに浮遊していたり、枯れ枝など浮遊物に付着する様に泳いでいるのを見る事ができ、網で捕獲する事も可能です。
形態・体色
体形はチョウチョウウオ科の魚に似て、縦に扁平で目と口を含む顔部分だけが少し尖っています。
チョウチョウウオより魚体の厚みがあり、極く細かな魚鱗と明瞭な側線が相違点です。
体色は黄みがかった銀色で、腹部は色が薄く背部に上がる程濃くなり、その背部に黒斑点が散っている模様から、魚名に「クロホシ」(黒星)の冠が付いており、
横から見た魚体の丸さから「饅頭」の様な鯛と呼ばれた様です。
幼魚では黒斑点が無く太い黒縦縞が全体に入っており、成長に連れて縞模様が消えて黒斑点が増えていきます。
幼魚は、チョウチョウウオ科にも見られる、頭部が骨板で覆われたトリクチス期という幼生期があって、8月~10月頃に体長約1~3cm程ですが、成魚では30cmを越える程の大きさになります。
食性
食性は雑食性で、ブラインシュリンプ・アサリなどの甲殻類や貝類、小魚、付着藻など何でも食べる悪食です。
その為、学名”Scatophagidae"の"scato"は「人糞」の意味で、糞食魚という不名誉な名前が付けられています。
飼育の注意点
水槽飼育は丈夫で何でも食べるので、非常に飼い易い観賞魚です。
しかし自然での雑食性は逆に言うと、色々な種類の食べ物が必要な事になります。
飼育下では動物性と植物性を適度に混ぜて与える事がポイントです。
また汽水域に棲んでいますから、塩分濃度に対する適応力もあるので楽です。
幼魚では淡水でも大丈夫ですが汽水が最適で、弱アルカリのph7以上の水質が良いので酸性を高める流木は入れない方が賢明です。
幼魚は小さいもので1~3cmですが、通常30数cmまで成長するので最低60cm以上水槽が必要です。
活発に泳ぎまわるので、成魚の複数飼いは相当な大型水槽でないと難しいでしょう。
食べ方
日本では、まとまった漁獲量が無い為に一部の漁獲地で食用として用いられますが、東南アジアでは比較的一般的な食用魚となっており、美味との評判があります。
身は透明感のある白身で、刺身は引き締まって適度に脂の乗った石鯛に似た味と言う人もいます。
もちろん加熱調理にも適しており、多少磯の香りがあるので単純な塩焼きよりも、水や油を使った潮汁、煮付け、揚げ物、ソテー、フライなどが、魚独特の香りが苦手な人には無難です。
火を通すと身が締まって良い具合な堅さになり、煮付けなどではゼラチン質の皮が煮凝り状になってコクが出ます。
気を付けなければならないのは、背鰭・尻鰭・尾鰭の先に毒腺があり弱い毒を持っている事です。
おまけに、鰭は包丁で落とし難い程硬いので、調理の際は要注意です。
準絶滅危惧種
クロホシマンジュウダイは高知県レッドデータブックで、準絶滅危惧種に指定されています。
これは直ちに絶滅するわけではないが、生育条件の変化によっては絶滅危惧種に入ってしまう可能性がある生物です。
野生生物減少の大きな原因は、人間による自然環境の悪化と乱獲がその一つです。
準絶滅危惧種は飼育や捕獲が法的に規制されているわけではありませんが、飼育して楽しめ、食べて美味しい魅力的な魚、クロホシマンジュウダイの捕獲は、自然保護を考えるとなかなか悩ましいところですね。