皆さんはドフラインイソギンチャクという生物をご存知でしょうか?
ドフラインイソギンチャクは深海性のイソギンチャクですが、20世紀初頭に新種とし発見されながら、その後およそ110年もの間姿を見つけることができなかった幻のイソギンチャクです。
今回は、そんなドフラインイソギンチャクの生態や特徴についてご紹介いたします。
ドフラインイソギンチャクの基本情報
学名 | Exocoelactis actinostoloides |
分類 | イソギンチャク目エクソコエラクティス科エクソコエラクティス属 |
分布・生息域 | 東京湾、相模湾 |
大きさ | 直径20cm程 |
分類
ドフラインイソギンチャク(Exocoelactis actinostoloides)は刺胞動物門花虫綱イソギンチャク目エクソコエラクティス科エクソコエラクティス属に属する海洋生物です。
イソギンチャク目は上に向いた口の周りに毒のある触手を持つことで知られる無脊椎動物です。
一般的にイソギンチャクは岩などに吸着して固定した後、動かないように思われがちですが、実際は吸着に使っている足盤を使って少しずつ移動することができます。
またイソギンチャクは定着性の刺胞動物の中では珍しく、単体の個体で成り立っていることも特徴です。
特徴
ドフラインイソギンチャクの直径は20cm程度です。
円筒形の体の上面に口盤があり、そこからたくさんの触手が生えている様は、他の多くの種のイソギンチャク類と比べても大差ありません。
イソギンチャク類は無脊椎動物であり、形態的に安定した形質を欠くことから種の同定が難しい生物と言えます。
ドフラインイソギンチャクの特徴として、研究者からは主軸が極めて顕著な集約的で強い内胚葉性周口筋を持つことが報告されています。
ドフラインイソギンチャクの体色については、白っぽい個体や赤みがかった橙色の個体が採集されています。
生態
ドフラインイソギンチャクの模式標本となる個体は、神奈川県の三浦半島付近の相模湾から採集されています。
その後、近年に東京湾から採集されて再発見されているため、少なくとも東京湾から相模湾にかけての海域に分布していると言えます。
今後の調査によって、分布が確認された海域が広がることも考えられるでしょう。
近年発見されているドフラインイソギンチャクのうち、鴨川シーワールドの飼育個体は、2012年に東京湾の水深200mに仕掛けられた刺し網で捕獲されており、深海域に生息している生物だと考えられています。
深海生物であるために観察は難しく、その生態についてはほとんど何も分かっていないと言っていいでしょう。
とっても珍しいイソギンチャク
ドフラインイソギンチャクを発見したのは、ドイツの動物学者フランツ・ドフライン(Franz Doflein,1873-1924)です。
ドフラインは1904~1905年にかけて中国、日本、スリランカといったアジアの国々を訪れて生物の調査を行いました。
そのドフラインが日本を訪れた際、神奈川県三浦半島の三崎臨海実験所に約2ヶ月間滞在しました。
そして、相模湾の海洋生物の調査に特に力を注ぎ、多くの種を発見、記載したのです。
その中の一つがドフラインイソギンチャクでしたが、その後再発見されないまま、実に110年もの歳月が流れてしまいました。
やがて2015年、千葉県立中央博物館の柳研介主任上席研究員を中心としたグループが再調査を行った結果、東京湾で110年ぶりにドフラインイソギンチャクを再発見するに至ったのです。
またそれに先立ち、2012年に東京湾で捕獲されるも、種名が分からないまま鴨川シーワールドで飼育されていたイソギンチャク類についても、調査の結果、ドフラインイソギンチャクであることが判明しました。
非常に珍しいドフラインイソギンチャクですが、水族館で飼育展示されることがあり、日本動物園水族館協会のデータベースによると2019年時点で、城崎マリンワールド、伊豆三津シーパラダイス、鴨川シーワールドの全国の3ヶ所の水族館で飼育されています。
最後に
ドフラインイソギンチャクを初め、日本の生物の研究に多大な貢献をしたドイツの動物学者フランツ・ドフライン。
そのドフラインは、日本の海に暮らす生物の多様性にとても驚いたそうです。
身近にあってあまり気づきにくいですが、日本の海の豊かさを、ドフラインイソギンチャクの再発見を通じて私たち日本人が再認識することができればよいなと思います。