映画「ジョーズ」の影響か、サメと聞けば獰猛な人食いザメを想像する人がたくさんいると思います。
しかしサメは世界の海に500種以上が知られていて、その中で人を襲うような危険なサメは10分の1もいないと言われています。
つまり、大半のサメはおとなしいサメなんです。
そんなおとなしいサメの中でも、水族館で見かける機会が多いのがトラフザメ。
大きく育って、綺麗な斑点模様があり、しかもおとなしくて飼育しやすい、水族館にはとてもありがたいサメなんです。
今回は、このトラフザメの特徴や生態についてご紹介させていただきます。
トラフザメの基本情報
学名 | Stegostoma fasciatum |
英名 | Zebra shark |
分類 | テンジクザメ目トラフザメ科トラフザメ属 |
分布・生息域 | 南日本、西太平洋、インド洋などの熱帯・亜熱帯地域 |
大きさ | 2.5m程 |
分類
トラフザメ(Stegostoma fasciatum)はテンジクザメ目トラフザメ科トラフザメ属に属するサメの一種です。
トラフザメ目には、世界最大の魚であるジンベエザメを筆頭に、オオテンジクザメ、イヌザメ、クラカケザメ、オオセなど形態も大きさも様々な種類が含まれています。
共通しているのは人を襲うような危険な種類はいないことと、多くの種類は海の底で暮らす底生性であることです。
その中でもトラフザメは、特にジンベエザメと近縁であると考えられています。
特徴
トラフザメの体長は最大で2.5mに達し、雌雄での体格差はありません。
ただし、非公式には3.5mの個体が観察されたという記録もあります。
大きくて平たい頭部に小さな眼、そしてずんぐりした体と同じぐらい長い尾鰭が特徴的です。
長い尾鰭は、体と一体的にくねらせることで遊泳能力の高さに繋がっています。
トラフザメの外見上最も目立つ特徴は、全身に広がる豹柄の斑点模様でしょう。
淡い黄色地の体に散らばる黒い斑点は、地味な体色の種類が多いサメの中ではとても目立つ種類です。
一方でトラフザメの幼魚は黒地の体に白の縞模様という、成魚とは全く違う外見をしています。
このため、かつて別種の魚と思われていたこともありました。
名称
トラフザメは漢字で書くと「虎斑鮫」。
「虎」は幼魚の縞模様、「斑」は成魚の豹柄模様に由来しています。
ちなみにトラフザメの英名はゼブラシャークです。
ゼブラとはシマウマの意味で、やはり幼魚時代の縞模様に由来しています。
英名でタイガーシャークやレオパードシャークと呼ばれるサメも存在しますが、それぞれ和名ではイタチザメとカリフォルニアドチザメを指します。
ややこしいので注意が必要ですね。
分布
トラフザメはインド洋から西太平洋にかけての温暖な海域に広く分布しています。
日本では主に南西諸島で観察されます。
大陸棚上の浅い海に生息し、特にサンゴ礁の砂地を好みます。
時には潮間帯で見られることもあります。
ある個体が140kmを移動したという記録があり、外洋の離島で見られることもあります。
ただし、遺伝子の研究からは、個体群間の移動は少ないことが示されています。
生態
トラフザメは夜行性で、日中は海底で休んでいることが多いサメです。
餌は海底の貝類や甲殻類、小さな魚などで、柔軟な体をくねらせながら獲物を追って岩の隙間や狭い穴の中まで入り込み、大きな口で吸い込むように捕食します。
通常は単独で暮らすトラフザメですが、数十匹の群れを作る行動も観察されています。
特にオーストラリアのクインズランド州南東部では毎年夏に、浅瀬で数百匹のトラフザメが集まる現象が見られますが、交尾行動が観察されておらず、何のために集まっているのかは分かっていません。
一説には雄同士の優位性を競う交尾前行動ではないかとも言われています。
繁殖方法
トラフザメは水族館の飼育下でもよく産まれるため、繁殖について詳細なことが分かっています。
交尾は雄が雌を追いかけ、胸鰭や尾に噛みつくことで始まります。
これは他の種類のサメでも交尾時によく見られる行動です。
雄は雌を海底まで連れて行き、まとわりつくように交尾を行います。
トラフザメは卵生で長径17cm程度の卵鞘を産みます。
卵鞘には粘着性があって、雌は岩の垂直な壁になっている部分を探して4個程度ずつ束にして卵鞘を固定します。
最大で46個の産卵記録があります。
一方でトラフザメは単為生殖が確認されている数少ないサメの一種でもあります。
雄との接触がない飼育下での産卵例があり、繁殖相手がいなくなると両性生殖から単為生殖に切り替わるのではないかと指摘されています。
卵は温度によるものの、4ヶ月から6ヶ月後に孵化します。
孵化時の幼魚は20~36cmで、雄は1.5~1.8m、雌は1.7m程度で性成熟します。
寿命については、野生下で25年から30年と思われています。
トラフザメと人間
トラフザメは底生性でおとなしくて飼いやすい上、ユニークな姿形をし、模様も特徴的なことから、水族館でよく飼育されるサメです。
特に、2001年に日本で初めて飼育下繁殖に成功して、繁殖賞を受賞した美ら海水族館では、よく繁殖しており体色の異なる幼体を見られる可能性が高いので、見に行くならお勧めです。
また危険性が少なく、海底であまり動かずに近づきやすいことから、ダイバーからも人気を集めています。
人気のダイビングスポットでは餌付けされている個体もいるようです。
ただし、トラフザメは他の多くのサメ類と同様に商業漁業の対象にもなっていて、特にフカヒレにするための鰭を目当てにした乱獲が行われています。
トラフザメのような底生性のサメは、個体群の移動が少ないために、乱獲による局地的な絶滅の恐れがあります。
国際自然保護連合(IUCN)はトラフザメを危急種に指定しています。
まとめ
トラフザメは、テンジクザメ目トラフザメ科トラフザメ属に属するサメの一種です。
とてもユニークな姿をし、おとなしく人にも慣れやすいサメです。
現在は過去の映画の影響もあって、サメは恐ろしく獰猛な生きものだというイメージが浸透してしまっていますが、実際のところ、大部分のサメは人間にとって危険性の少ない種類なのです。
そんなサメが世間から受けている誤解を払拭するためにも、いろんな水族館で見ることができるトラフザメには、頑張ってその魅力を訪れた人たちに伝えてもらいたいものですね。