皆さんはヨダレカケという魚をご存知でしょうか?
ヨダレカケという名前自体も変わっていますが、この魚で特筆すべきはその習性です。
普通の魚は水の中で暮らしていますが、このヨダレカケは水が大嫌いで、打ち寄せる波から逃げて陸に上がるとう、とても不思議な行動を見せるのです。
今回はそんなヨダレカケの特徴や生態についてご紹介いたします。
ヨダレカケの基本情報
学名 | Andamia cyclocheilus |
英名 | Four-fingered lipsucker |
分類 | スズキ目イソギンポ科ヨダレカケ属 |
分布・生息域 | 琉球列島以南 /太平洋・インド洋・大西洋 |
大きさ | 10cm程度 |
分類
ヨダレカケ(Andamia cyclocheilus)はスズキ目イソギンポ科ヨダレカケ属に属する海水魚です。
イソギンポ科は太平洋、インド洋、大西洋の熱帯・亜熱帯海域に広く分布していて、これまでに約360種が知られているグループです。
大半が海底に暮らす小型魚類で、吻部が前に出ておらず、垂直に切り立った頭部を持っているのが特徴。
その中においてヨダレカケ属はインド洋から太平洋にかけて、7種が知られています。日本国内ではヨダレカケの他に、カンムリヨダレカケの分布が報告されています。
特徴
ヨダレカケの体長は10cm程度です。
体型は細長い円筒形で、後部へ向かうにつれて側扁します。
また頭部はやや縦扁していて、眼の上に皮弁を持つ他、下唇に吸盤があるのが特徴。雄の背鰭第2棘は著しく伸長し、頭部に正中線皮弁がありません。
ヨダレカケの体色は褐色ですが、腹部は白色です。頭部には小さな黒色の斑点が、体側面には黄色あるいは白色の斑点が散在します。
同属のカンムリヨダレカケは、頭部に斑点が見られないことで、ヨダレカケと区別が可能です。
生態
ヨダレカケは西部太平洋の熱帯海域に分布する魚で、琉球列島から台湾、インドネシアにかけて知られています。
国内では琉球列島で見られる他、幼魚は宮崎県の青島からも見つかった記録があります。
ヨダレカケは岩礁性海岸の潮上帯や飛沫帯に生息していて、消波ブロックのような人工構造物で発見されることもあります。
陸に棲む魚、あるいは水を嫌う魚として有名で、水中に入ることはなく、波に洗われる岩場に、口の下側にある吸盤で張りついて生活しています。
この吸盤部分が、子供に用いられるよだれかけに似ていることが、和名の由来となりました。
餌は岩に生えた藻類で、この波打ち際の藻類を独占的に食べるため、このような習性を持つ方向へ進化したと考えられます。
ヨダレカケは基本的に水中には入りませんが、皮膚の乾燥を防ぐために、時々体を回転させて湿らせます。
また、水面上を飛び跳ねて移動する行動も観察されています。
繁殖に当たっても、ヨダレカケは潮上帯の、乾燥することのない岩穴や岩の隙間に産卵を行い、雄親が卵を保護します。
水が嫌い??
ヨダレカケは通常食用魚として利用されることはなく、漁獲の対象にもなっていません。
ただし、陸上で暮らすそのユニークな生態は、水が嫌いな魚などとしてテレビで紹介されたこともあり、注目を集めています。
ヨダレカケは水族館でも飼育されることがあり、生息地にほど近い鹿児島県鹿児島市のいおワールドかごしま水族館や、水中生物の行動に焦点を当てた展示に取り組んでいる大阪府吹田市の生きているミュージアムニフレルなどにおいて、展示されています。
まとめ
ヨダレカケは、スズキ目イソギンポ科ヨダレカケ属に属する海水魚です。
魚なのに水が大の苦手。
そんな不思議なヨダレカケは、飛び出した目に大きな口を持ち、まるでカエルのような姿をしています。
水辺で飛び跳ねるという行動面においてもカエルとよく似ており、収斂進化の事例の1つなのかも知れません。
私たちの興味を惹きつけてやまないヨダレカケは、今日も南の海の波打ち際で、迫りくる水から逃げようと跳ねていることでしょう。