タコを知らない人はいないでしょう。
お魚屋さんやスーパーの鮮魚売り場には必ず売ってるタコはほとんどがマダコです。
でも知っている様で以外に知らない事が多いのもマダコです。
今回は、マダコの生態や特徴、毒性についてご紹介させていただきます。
マダコの基本情報
学名 | Octopus vulgaris |
英名 | Common octopus |
分類 | タコ目(八腕目)マダコ科マダコ属 |
分布・生息域 | 太平洋側の三陸沖以南、日本海側の北陸以南、太平洋、大西洋、インド洋 |
大きさ | 60cmほど |
生息域
太平洋、大西洋、インド洋など世界中の熱帯及び温帯域の沿岸部に生息しています。
日本では太平洋側の三陸沖以南、日本海側の北陸以南で見られます。
棲んでいるのは浅瀬の岩礁域や砂礫域から水深40m程度の海底まで比較的広い範囲ですが、真水は嫌うので汽水域にはいません。
しかし今まで同種のマダコとされていた中に、識別が非常に困難な別種が混じっている可能性が最近になって指摘されています。
今後の研究によっては日本のマダコが固有の独立種と見なされるかもしれません。
タコの種類は世界で約200種類、日本周辺にいるだけでも50種類を超えています。
タコの仲間は生息する水深によって、1表層浮遊性、2亜表層・中層性、3中・深層、4近底層性、5底棲性の海中五階層に分かれており、全体では12科に分類されている内でマダコが属しているマダコ科の1科だけが最深層の底棲性です。
タコといえば海の底を這い回っていて、逃げる時だけ黒いスミを吐きながら一直線に泳ぐのが私達の持っているタコのイメージですが、実はそんなタコの姿はマダコだけで、ほとんどの全ての他のタコは海中を浮遊して暮らしています。
特徴
丸い頭に8本の足というタコの形は誰でも知っているでしょうが、丸い頭は実は頭ではありません。
頭と思われている部分は胴体で中に胃や心臓など内臓が入っており、足の付け根の目がある所が頭です。
そして頭から直接足が出ているので頭足類と呼ばれます。
でも正確には8本の「足」は触手と呼ばれていて、英語では「アーム」になるので4対8本の「手または腕」なのです。
しかし最近の研究では8本の内の2本が足、6本が手の働きをしている事が確認されています。
人でいうと左右3本づつの手と2本の脚というところでしょう。
全ての触手には吸盤が付いており、筋肉の動きによって対象物に吸い付きます。
その力は強く好物の二枚貝などを強引に開けてしまうほどです。
よく似た生物にイカがいます。
イカの5対10本の触手にも吸盤状の構造がありますが、これはタコの様な吸い付く吸盤ではなくて、円盤状の歯状の角質で噛みつく様に張り付く仕組みになっています。
そしてタコの絵を描くと口は必ず尖って突き出た形になりますが、目の近くにある口に見える短いホース状のものは、口ではなく漏斗官と呼ばれる器官です。
漏斗官からはエラから吸い込んだ海水や糞など排泄物を排出します。
つまりあれは口ではなく肛門なのです。
それなら口は何処に?
タコの口は8本の触手の根本内側にあります。
人でいうなら足の付け根、肛門あたりでしょうか。
頭がお腹で、口が肛門で、肛門が口でと、よく見るとなんだかヘンテコな生き物ですね。
生態
1.食性と捕食
主な食べ物は海老や蟹など甲殻類と二枚貝です。
昼は岩の隙間や人が捨てた瓶缶など身体がすっぽりと入る所を棲み処として潜んでいて、この習性を利用したタコ漁が、タコが名産の兵庫県明石で行われるタコつぼ漁です。
夜になると棲み処から出て来て採食行動を始めます。
餌は主に海老や蟹など甲殻類と二枚貝ですが、釣りの餌では魚の身や鶏肉豚肉やビーフージャーキーなども使われるほどに食物には貪欲です。
タコは視覚と嗅覚が鋭くまた吸盤には嗅覚と触覚があって、これらの感覚で獲物を探します。
捕食は吸盤の付いた触手で絡めとり、チラミンとセファロトキシンという毒素を含む唾液で麻痺させます。
捕らえた餌は口の中にある黒い堅い嘴で噛み千切って食べます。
人が噛まれる事もありその唾液の毒素で痛みが残りますが、死ぬような事はありません。
2.保身術
身体の柔らかい表面には細かい突起で覆われており、皮膚全体に色素細胞が分布しています。
この突起の長さと色素細胞の色を瞬時に変化させて、岩や砂、珊瑚や海藻など周囲の環境の形と色に体表を非常に良く似せて変えてしまいます。
見事なその保護色と擬態は人でもなかなか見破る事ができません。
万が一見つかって身に危険が迫ると漏斗菅から目眩ましのスミを吐き、敵が驚き幻惑される隙に漏斗菅から海水を勢いよく噴射して猛スピードで泳ぎ去ります。
スミには敵の嗅覚を鈍らせる効果もある様です。
また自分の触手の一部を切り捨てる事もあります。
捕食者がそれに気をとられている間に逃げるという捨て身の作戦です。
3.繁殖
繁殖期は春から初夏にかけてで、岩の割れ目の奥など安全な場所に一度に10万~20万個の卵が産み付けられます。
狭い岩の天井からは、一つに1000個程度の卵が付いた10cmほどの房状の塊がいくつもびっしりとぶら下がっています。
その様子がまるで小さな白い藤の花に見える事から、その房は「海藤花」と呼ばれています。
産卵した雌は孵化までの1ヶ月間ほどを採食もせずに卵のそばに居て、酸素を含む新鮮な海水を吹き掛け、卵を狙う外敵を追い払うなど卵の世話を続けます。
そして卵が孵化すると雌タコが死んで行きます。
哺乳類に似た母性的なこの行動は、両眼の間にある視柄腺からの分泌物のよって引き起こされる事がシカゴ大学の研究で判明しています。
孵化した子供は海流に乗って3~4ヶ月浮遊拡散しますがそのほとんどは他の生物に捕食され、生き残ったほんの一部だけが海底に定着して2~3年かけて成長します。
そして成熟したタコは生涯に1度だけの繁殖期を迎えます。
マダコの毒性
上記で軽く触れましたが、実はマダコには毒があります。
毒があるのは身ではなく唾液で、チラミンとセファロトキシンという毒素が含まれています。
したがって、人がマダコに噛まれると、
・強い痛み、腫れ、痺れ
といった症状が現れます。
死亡するようなことはないようですが、長いと1週間ほど痛みが続くようです。
跡が残ってしまう事もあるそうなので、もし噛まれてしまった場合は念のため病院へ行った方がいいでしょうね。
賢いマダコ。飼える?
捻じるタイプの蓋をした餌入りのガラス瓶をタコの前に置くと、直ぐにタコはそのガラス瓶に触覚を絡めて餌を取ろうとします。
これはタコが目で餌を見分けている証拠です。
しかもタコは少しの時間で器用に蓋を捻じって開け、見事に餌をものにします。
この様に知能もかなりある事が推測されます。
そんなタコを鑑賞用に飼育する事も可能です。
ただ賢い動物で陸上でも移動できるので、逃げ出さないように水槽の蓋に工夫が必要で、隠れる狭い場所の確保など生活環境も十分に準備しなくてはなりません。
今流行りのメダカを飼う様なわけにはいかず、水生動物の飼育としては難易度はかなり高くなりますが、賢いだけに慣れて来ると餌をねだったりする可愛い様子を見る事もできます。
美味しい食材としてだけではなく、生物としてまたペットとしての魅力もなかなかで興味深いマダコです。