皆さんはサカサクラゲという生物をご存知でしょうか?
クラゲと聞けば、皆さんは傘から下に向かって触手を伸ばした姿で、水中をふわふわと漂う様を想像するのではないでしょうか?
サカサクラゲはそういった普通のクラゲとは全く異なり、傘を海底につけながら触手の代わりの口腕を上に向けるという、まさに名前のごとき逆さまな姿をしたクラゲなのです。
今回は、そんな不思議なサカサクラゲの生態や特徴、飼育についてご紹介いたします。
サカサクラゲの基本情報
学名 | Cassiopea ornata |
英名 | Upside-down jellyfish |
分類 | クラゲ目サカサクラゲ科サカサクラゲ属 |
分布・生息域 | 九州以南、西部太平洋 |
大きさ | 10~12cm程 |
分類
サカサクラゲ(Cassiopea ornata)は刺胞動物門鉢虫綱根口クラゲ目サカサクラゲ科サカサクラゲ属に属する海洋生物です。
刺胞動物は触手に物理的または化学的刺激によって毒液を注入する針を備えた細胞を持つ生物のグループで、漂泳性のクラゲや付着性のサンゴやイソギンチャクといった生物が含まれています。
鉢虫綱はいわゆるクラゲとして知られる種の多くが含まれる分類群で、その中でも食材として珍重されるヒゼンクラゲや、巨大に成長するエチゼンクラゲを含むグループが根口クラゲ目です。
サカサクラゲを含むサカサクラゲ属はこれまでに世界で8種が知られています。
形態と特徴
サカサクラゲの円盤状の傘の直径は通常10~12cm程度で、最大20cmに達します。
クラゲの傘の縁から生えるものを触手と呼びますが、サカサクラゲにはこの触手が存在しません。
代わりに傘の内側から口腕と呼ばれる長い腕状の器官が4本存在していますが、根元で2つに分かれているために一見すると8本に見えます。
また、サカサクラゲを含む根口クラゲ目のクラゲはこの口腕の先に獲物を捕食する小さな口があるのが特徴です。
サカサクラゲの体色は、半透明の褐色から緑褐色で、個体によって差があります。
これまでに8種が知られているサカサクラゲ属ですが、どの種も外見がよく似ており、海中での観察で種を識別するのは難しいようです。
生態
サカサクラゲは西部太平洋の熱帯・亜熱帯海域に広く分布するクラゲで、日本の他に北マリアナ諸島、パラオ、インドネシア、パプアニューギニア、オーストラリアから知られています。
国内では九州以南から琉球列島にかけて見られますが、近年は高知県沿岸でも記録されています。
サカサクラゲは浅い海の砂泥底に生息しており、名前の通りに傘を下にして海底に貼りつくような恰好で、口腕を上に向かって伸ばしている姿が観察されています。
時々移動のために海底を離れて泳ぐことがありますが、その時も普通のクラゲとは上下逆さまの恰好で漂います。
サカサクラゲの体内には褐虫藻と呼ばれる藻類を共生させていて、この褐虫藻が光合成によって作り出す栄養分を得て暮らしています。
そのため、海底で逆さまの状態でいるのも、褐虫藻が光合成をしやすいようにするためではないかという説が有力です。
サカサクラゲは生命維持に必要な栄養源の大半を褐虫藻に頼っていますが、他の餌を全く取らないわけではなく、口腕の先の口で海中を漂う動物性プランクトンを捕食することがあります。
サカサクラゲはポリプによって無性生殖で数を増やすことが可能なクラゲです。
サカサクラゲの毒性
刺胞動物であるサカサクラゲは他のクラゲ類と同様、刺胞毒を持っています。
ただし、その毒性はあまり強くなく、触れても痛みを感じるほどではありません。
体質によって痒みを感じる人がいる程度です。
ただし、分布域の海底ではサカサクラゲとよく似た猛毒のイソギンチャク類が存在しているので、海の中で見つけても不用意に触るのは避けるべきでしょう。
サカサクラゲを飼育するには?
サカサクラゲは通常食用として利用されることはありませんが、そのユニークな姿と生態、そしてポリプによって増やすことが容易であることから、クラゲ飼育を愛好するアクアリストの間でよく飼育される種です。
サカサクラゲは一定以上の水温の高さと、褐虫藻が光合成を行うのに必要な光の確保さえできれば、飼育は難しくありません。
水中を漂うクラゲ類の多くは、人工的に水流を作る必要があるので飼育する上でのハードルが高くなってしまうのですが、海底にへばりつくように暮らすサカサクラゲは水流を必要しないため、コップでも飼えるほどです。
餌も褐虫藻から栄養を得るためにほとんど必要なく、たまに動物性の餌を与える時もブラインシュリンプやクラゲ用の人工飼料で事足ります。
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サカサクラゲは水族館でも飼育展示されており、日本動物園水族館協会のデータベースによると2018年時点で、沖縄美ら海水族館、京都水族館、東京都葛西臨海水族園、アクアワールド大洗など、全国の21ヶ所の水族館で飼育されています。
まとめ
普通のクラゲとはまさに逆さまな暮らしを送るサカサクラゲはユニークであるばかりか、クラゲ飼育の入門種と呼ばれるほどに飼いやすいクラゲです。
展示している水族館も数多くありますし、アクアショップで見かけることも珍しくないでしょう。
クラゲに興味を持っている方は、一度サカサクラゲの飼育にチャレンジしてみてはどうでしょうか?