小学生にお魚の絵を描かせると、大抵はキンギョハナダイになってしまうのではないかと思う位に、その姿形とオレンジっぽい色が魚らしい魚です。
漢字で書くと金魚花鯛となるのは、やはり金魚に似ているからだと納得してしまいます。
でもよく見るととても魅力的なお魚なのです。
基本情報
学名 | Pseudanthias squamipinnis |
英名 | Sea goldie |
分類 | スズキ目スズキ亜目ハタ科ハナダイ亜科ナガハナダイ属 |
分布・生息域 | 房総半島以南、インド洋、太平洋 |
大きさ | 10~14cm |
分類はスズキ目・スズキ亜目・ハタ科・ハナダイ亜科・ナガハナダイ属となっており、高級食材として有名なクエや人より大きなタマカイは同じハタ科です。
ハナダイが直接含まれるハナダイ亜科では200種以上の仲間がいる大所帯の魚種です。
特徴
ハナダイの大きさは成魚で10cm~14cm程度の小型魚です。
雌雄で体色と体形が若干違ってきます。
雄は紫色に近い淡い赤で、その色が胸鰭、尾鰭、尻鰭では色濃くなっています。
雌の体色は濃いオレンジ色で、「キンギョ」の名前はこの色が由来の様です。
各鰭の先端や部分では色目がグラデーションに濃くなっていきます。
雄雌共に、その体色は生息する地域によりかなり差があり、全般に暖色系ではありますが、紫から赤や黄色まで様々な違いが見られます。
尾鰭の上下両尖端が伸びて、尾鰭の先が美しい弧を描いているのは雄雌双方に共通しており、優雅さを感じさせます。
雄の成魚の特徴は、背鰭最前部の第3棘が、アンテナの様に非常に長く伸びている事です。
背鰭が尾鰭近くまで同じ高さで続いており、時折長い第3棘と一緒に背鰭全体を立てて大きく広げる事があります。
その目的はよく分かりませんが、繁殖期や争いなどの時に個体の優位性をアピールするディスプレイではないか、とも考えられています。
生態
インド洋から紅海、太平洋にかけての温帯から熱帯域の海に広く分布しています。
日本では房総半島以南の海岸線にそって生息しています。
水深30~40mまでの珊瑚礁や岩礁域の潮の流れが良い場所に多くの群れをなして棲んでおり、生活岩と呼ばれる根城が決まっていて、夜の睡眠時のねぐらにしたり、外敵に襲われた時の避難場所になっています。
一生をその生活岩周辺で送り、そこから遠くへ移動してしまう事はありません。
食べ物が潮流に乗って流れてくるプランクトンなど小さな生き物で、その為に潮通しの良い岩礁斜面を好んで生活しています。
雌性成熟の性転換
キンギョハナダイの幼魚は全て雌です。
成長成熟して成魚になった中から強く大きな一部の個体だけが、雌から雄へ性転換をします。
これを雌性先熟の性転換と呼び、一部の魚類で見られる生態です。
キンギョハナダイは、1匹の雄を中心に多くの雌が群れて暮らすしており、その為に繁殖はこの1尾の雄が断然有利となります。
成長前から雌雄が決定されている場合は、成長し切れていなかったり、小さくて弱い雄の成魚は、自分の子孫を残す可能性が低くなってしまいます。
雄として繁殖に挑める条件が揃うまでは、雌の方が自己の遺伝子を残す率が高くなるので、この様な繁殖形態が生まれたと考えられています。
ですから、ハーレムの主の雄が死んだりして居なくなると、群れの雌の中の1尾が性転換して雄になっていきます。
水族館では、この性転換による興味深い外見の変化過程を見られる事があります。
飼育するには?
キンギョハナダイは、性質が大人しくて、魚体が適度な大きさなので、飼育に向いている魚です。
金魚の様な赤い魚と一口に表現してしまうには、実際の色は惜しい美しさです。
赤や紫や黄色が微妙なグラデーションや模様で輝いています。
間近に眺める事ができる水槽飼いは、そんなキンギョハナダイの魅力を鑑賞するのに最適です。
活発に泳ぎ回る魚ですから、成魚なら60cm水槽に3匹程度が限度で、出来るだけ大きな水槽を用意しましょう。
注意が必要なのは、キンギョハナダイだけの同種混泳では、ハーレムを作る習性があるので雄は必ず1匹にする事です。
雌だけを入れておくと中の1匹が雄に性転換する様子を見る事ができるかもしれません。
また自然では棲み処の生活岩を持っていて、潮流のある環境で暮らしているので、岩やサンゴで寝る場所を作ってやり、浄化ポンプで水流を起こすとその習性上良い環境になるでしょう。
餌は人口餌、冷凍餌共によく食べる方で、あまり苦労はない筈です。
まとめ
キンギョハナダイは、スズキ目スズキ亜目ハタ科ハナダイ亜科ナガハナダイ属の海水魚です。
雌先成熟の性転換という珍しい生態や、色模様の美しさをすぐ目の前で目撃できる水槽飼育は、飼い易い事もあってキンギョハナダイの魅力を楽しめる一つの良い方法ではあります。
しかしこの魚の本当の魅力は、自然の海の中でしか見る事のできない、海中一杯に群れるその煌く大群泳の迫力だと思います。
できれば、怖い程多くのキンギョハナダイの群れの真ん中にこの身を浮かべてみたいものです。