ニセクロスジギンポは、スズキ目ギンポ亜目イソギンポ科に属する海水魚で、細長いスリムな体に黒のボーダー模様が走る見掛けが可愛らしい姿をしています。
しかし、その可愛さには裏があるというちょっとダーティーなイメージがあるお魚なのです。
今回は、ニセクロスジギンポの特徴や生態、ホンソメワケベラとの違いについてご紹介させていただきます。
ニセクロスジギンポの基本情報
学名 | Aspidontus taeniatus |
英名 | False cleanerfish |
分類 | スズキ目ギンポ亜目イソギンポ科クロスジギンポ属 |
分布・生息域 | 相模湾以南、西部太平洋~東部インド洋 |
大きさ | 10cm~12cm程 |
生息する海域
西部太平洋~東部インド洋までの熱帯海域に分布しています。
日本では相模湾より南の沿岸部に生息しています。
生態と身体的特徴
ニセクロスジギンポは水深1m~25m程のサンゴ礁・岩礁域に、普段数匹の小さなグループやオス・メスのペアで活動しています。
活動していない時は岩の隙間から顔だけ出す様子が見掛けられます。
幼魚時代は浅い内湾で過ごします。
成魚の体長は約10cm~12cm程で、下顎には大きな2本の犬歯が有ります。
ホンソメワケベラへの擬態

これがホンソメワケベラ
ニセクロスジギンポが一生懸命真似ているのは、クリーニングフィッシュとして有名なベラ科の魚「ホンソメワケベラ」です。
細長い体つき・口先から目を貫通し尾びれまで走る黒いボーダー模様、体の後ろ側がブルーなのも本物そっくりに擬態しています。
ホンソメワケベラは自分の存在をアピールするために頭を動かさず、体の尻尾側だけをピコピコ動かす独特のダンスを踊ります。
そのダンスと姿を目印に大きな魚達は「おっ掃除屋だな?」とホンソメワケベラを認識します。
大きな魚たちはホンソメワケベラを襲う事はせず口を開けて、クリーニングを受ける為にじっとしていたり寄ってきたりします。
ホンソメワケベラのクリーニングはとても人気で、大型の魚が列をなし順番待ちする程です。
このホンソメワケベラのダンスまでをニセクロスジギンポは完コピするのです。
似ているのは見た目だけじゃなく踊りまで真似る徹底ぶり・用意周到ぶりは頭が下がります。
ニセクロスジギンポの巧妙な擬態技にすっかり騙されてしまう魚が続出するのも仕方が有りません。
大きな魚たちは偽物の作戦にまんまと引っかってしまい、リラックスしてクリーニングされるのをじっと待っていると突然身体に痛みが走ります。
ニセクロスジギンポが皮膚・ヒレ・鱗等を齧り取ったのです。
そこで初めて偽物と気付きます。
最近の研究ではニセクロスジギンポの主な食料は、この様な他の魚の皮膚等ではなくゴカイの仲間の「イバラカンザシ」というクリスマスツリーのような形の固着生物(岩やサンゴなどにくっ付いて簡単に移動できない生物)を食べている事が分かってきました。
その他に動物性プランクトン・魚の卵等も食べているようで食べ物には余り不自由していない印象です。
ホンソメワケベラとの見分け方
魚達も騙されてしまう程似ているホンソメワケベラ(本物)とニセクロスジギンポ(偽物)との見分け方としては口の位置です。
本物の口は小さくて正面を向いて付いていますが、偽物はやや下向きに付いていて口を開けると下あごの犬歯が目立つので分かりやすいと言えばわかりやすいポイントです。
しかし実際海の中で見たらそっくりに擬態しているので、パッと見てもじっくり見てもなかなか分かり辛いでしょうね。
最後に
他の魚を騙して身体を齧り取る不届き者のイメージが強いニセクロスジギンポですが、弱肉強食の厳しい海の世界で小さな体で生き抜く為ありとあらゆる知恵と技を凝縮し体現している存在です。
大きな魚たちに愛されているホンソメワケベラに擬態することで、敵を味方にして自分たちが捕食されるリスクを極限まで低くする姿は強い生命力と逞しさを感じます。
主な食料でもないのになぜ他の魚の身体を齧って傷付けるのか?
わざわざ皆に嫌われるような事をしなくても良いのにと、個人的には思ってしまいますが本当の所どうなんでしょう。
そんな疑問がわき出てくるとても興味深い海水魚です。